2012年5月30日水曜日

原油高より深刻?ガソリンスタンドの人手不足

ガソリンや灯油の店頭価格が上昇している。石油情報センターのまとめでは、レギュラーガソリンが1リットル150.2円(全国平均、11月19日時点)と1987年の調査開始以来の最高値だ。

スタンド経営者は「消費者の買い控えを招く」と需要の減少に気をもむ。だが、それ以上に深刻な問題になっているのは年末年始の帰省ラッシュを前にしたアルバイト店員の不足だ。

バイト不足はこの夏から続いている。「夏休み期間の学生バイト募集を情報誌に出したが、応募が全くなかった」。大手元売り系列の特約店経営者は嘆く。募集広告に反応がなかったのは2度目。繁忙期には普段以上の人手が必要だが、社員や既存のバイトに過剰な負担をかけるわけにはいかない。結局、苦肉の策として24時間営業の店舗の1つで、月遅れ盆のうち2日間の深夜営業をやめた。

人材大手のインテリジェンスがまとめた9月のガソリンスタンド店員の平均時給(全国)は919円だった。夏も冬も屋外で働くなど大変な仕事だが、全職種平均(975円)に比べ高いわけではない。

あるスタンド経営者は「人手を確保するために時給を上げるのは難しい」という。ガソリンや軽油などでの利益確保が厳しい中、人件費負担を増やしにくい事情があるからだ。

ではセルフ式スタンドへの業態変更は対策にならないか。資源エネルギー庁の調べでは、全国のスタンド総数が約4万5000カ所(2007年3月末)と12年連続で減少する一方、セルフ式の比率は年々上昇し現在は全体の15%程度を占めるに至っている。

店員が給油するフルサービス店はセルフ式よりも運営コストがかかる。人件費を浮かせた分を回せば、1リットル当たり数円とはいえ安いガソリンを消費者に提供できる計算だ。だが、フルサービス店のセルフ化はそう単純な話ではない。

フルサービス店は給油するためだけに人を置いているのではない。深夜・早朝に営業し、タクシーやパトカーなど業務用車両の洗車・整備を手掛ける店は意外に多い。「女性や年配の人を中心にセルフ式を嫌がるケースがある」(あるスタンド店員)との声もある。こうした店舗がセルフ化すればこれまでの収益源を放棄することになる。

地域に密着していた酒屋や家電販売店が消えていったように、バイト代も捻出(ねんしゅつ)できないようなガソリンスタンドはなくなっていく運命かもしれない。だが、スタンドには社会インフラとしての側面もある。石油業界は全国のスタンド網を維持しながら、多すぎるスタンドを減らすという矛盾する課題に取り組まなければならない。

2012年5月23日水曜日

木材全面安の中、カナダ材が逆行高

6月に改正建築基準法が施行され、住宅着工が落ち込んだため、木造住宅に使われる木材製品は全面安の様相となっている。その中でカナダ材だけは例外だ。現地業者のストライキが長引き、極端な供給不足によって需給が逼迫(ひっぱく)しており、逆行高を演じている。

カナダ材の主力品である米ツガ正角(4メートル×10.5センチ角)の国内卸価格は、現在1立方メートル当たり4万2000―4万3000円程度。1カ月前に比べ5000円程度(13%)上昇した。待遇改善などを求める現地製材業者のストライキが7月末から約3カ月にわたって続き、供給が大幅に減少したためだ。対日輸出価格も最近は1立方メートル330―350ドル程度で、ストライキ前に比べ50―70ドル上がった。

カナダ材は主に土台に使われるため、腐食やシロアリを防ぐ薬剤を注入して加工する。輸入量が急減したため、工務店など需要家の中には、一部、国産のヒノキなどほかの樹種に切り替えるケースもあったという。「輸入量は通常の半分以下になった」(土台メーカー)との声もあり、極端な品薄も懸念されている。

もっとも、国内価格の上昇は比較的緩やかだったとの見方もある。国内需要が鈍かったためだ。建築基準法の改正で住宅着工が大幅減となり、本来なら全国的に需要が盛り上がる秋需も不発となった。「需要減のおかげで国内市場もそれほど混乱せずに済んだ」(商社)との見方もある。

ストライキが終わったものの、現地ではなおフル生産には戻っていない。今後、供給量が増えれば、市況が軟化する可能性もあるが、「輸入量が通常に戻るのは来年以降」(建材商社)という。

来春には北日本の降雪地帯などを含め全国的に住宅着工が増える需要期となるほか、改正建築基準法による建築確認の遅れも解消するとみられている。「価格が大きく下がることはないのではないか」(商社)との指摘が多い。

2012年5月10日木曜日

新潟コシヒカリ反発は選挙対策効果?

安値が続いていた2007年産の新米価格が上昇に転じた。特に昨年より安く出回っていた新潟産コシヒカリが、政府の備蓄米の買い入れ拡大を契機に、上昇に向かったことで、胸をなで下ろすコメ関係者も少なくない。

コメ価格センターが12月5日に実施した入札では、新潟産一般コシヒカリの07年産が60キロ1万9609円で全量落札された。落札価格は今シーズン初の上場となった10月17日より2837円(16.9%)高く、前年同期の06年産と比べても732円(3.9%)上昇した。

07年産米の値下がりへの対策として打ち出された11月末の政府の備蓄米買い入れ入札で、新潟産一般コシヒカリ6万2000トンが全量落札され、数量確保を急ぐ卸業者の買いが集まったことを映した。

今シーズン初の上場となった07年産の新潟産一般コシヒカリの入札の落札価格は1万6772円。06年産米の初回入札の1万8854円より2082円(11%)安かった。昨年に売れ残りが発生したため、産地が慎重になり、高い価格設定を避けたわけだが、市場では「新潟ショック」として一気に広がった。

多くの産地・銘柄米は新潟産コシヒカリ価格を上限のメドにして、数百―数千円を引いて値決めしている。

一方、下限のメドとされてきた北海道産きらら397の07年産は初回入札の価格が1万3387円で、06年産の初回入札時より87円(0.65%)上昇した。価格の割に食味がいいため、3―4年前から市場で人気が高まっており値段も上昇傾向にある。

今年は上限が値下がりし、下限が値上がりしたことで、価格帯が例年以上に狭くなった。新潟コシヒカリを指標としてきた産地は狭いレンジ内で、値決めせざるを得なかった。北海道産を始め青森県産など新潟産コシヒカリに比べ割安感を売り物にしていた産地では、お値打ち感を打ち出しにくくなった。

各地の銘柄米を並べるスーパーでは、「新潟コシヒカリが安いと、消費者には他産地のコメが割高に受け止められる」(都内のスーパー)というぼやきも出てきた。

ここにきて新潟産コシヒカリが上昇に転じたことで、「ようやく価格設定に柔軟性を持たせられるようになる」(都内のスーパー)と歓迎する向きが多い。

しかし、安値で出回った新潟産コシヒカリが上昇に転じたのも、政府の備蓄米買い増しという「カンフル剤」によるもの。今年7月の参院選で惨敗した自民党による農家への選挙対策の側面が強い。需給が緩めば価格が下落するという「市場のシグナル」を農家に認識してもらい、コメの生産調整につなげようとする流れには逆行するものだ。

はからずしも新潟産コシヒカリは価格の指標だけでなく、今年の備蓄米買い入れ効果の代表格にもなった。来年、生産調整に消極的になる産地が増えてもおかしくない。