2014年9月10日水曜日

利益の極大化をめざす

株価収益率がきわめて高いレベルに維持されているということは、日本企業から見れば外国企業を買収しやすく、外国企業から見れば日本企業の買収が非常に困難、ということになる。最近では日本企業の株価収益率も下がってきているが(一九九一年末)欧米の企業にくらべると、まだまだかなり高いレベルにある。高い株価収益率は、いわば侵人れを撃退する中世の濠や城壁のようなものだ。
 
日本企業と対照的な行動に出たのが、アメリカの家電メーカーだ。アメリカの家電メーカーは、利益極大化の戦略にしたがって市場からの撤退を繰り返し、ついに消え去る運命をたどった。日本のメーカーが白黒テレビの市場に輸出攻勢をかけたとき、アメリカの家電メーカーは利益率を日本企業なみに引き下げて戦うよりも、市場から撤退する道を選んだ。それでも、白黒テレビ以外の分野では目標どおり一五パーセントの利益率を上げることができた。

だが、日本企業が低い利益率をものともせずにラジオ、ステレオ、カラーテレビとつぎつぎに新しい製品市場に参入してくると、アメリカのメーカー各社は足並みを揃えたようにひとつまたひとつと市場から撤退を続け、とうとう家電製品の業界から完全に姿を消してしまったのである。撤退を続けながらも、アメリカのメーカー各社はそれぞれの時点において目標とする高利益率を達成していた。アメリカ企業の経営陣に言わせれば、収益率を下げてまで生産を続けるよりも、さっさと市場から撤退するほうが合理的なのである。

利益の極大化をめざすアメリカ企業からすれば、マーケットーシェアを拡大するためにがんばるのは合理的ではない。戦うより降参する道を選ぶほうが理にかなっている。戦えば戦うほど消費生活を潤す利益が減ってしまうからだ。理論の上では撤退によって余った労働力はいつでも生き残った企業に雇ってもらえるわけだから、不都合なことは何もない。実力があれば、相手のトップ経営陣から引き抜きがくるはずだ。

賃金は労働者が各々の生産能力に応じて得るものであり、どの企業のために自分の生産能力を発揮するかはたいした問題ではない。より多くの消費を可能にするために働く労働者は、いわば金で雇われた傭兵のようなもので、優勢なほうへさっさと寝返ってしまう。対照的に、エンパイアービルダーの労働者は、侵略者を撃退しようとして戦う。