2015年9月10日木曜日

空調3本柱でグローバル展開

井上は空調事業が向かうべき方向を早々に見定めた。94年10月、常務会で「空調改革計画」を決定した。業務用エアコンに重点を置く従来の路線を改め、ルームエアコン、業務用エアコン、オフィスビルなどに導入するセントラル空調の3本柱を戦略的に追求する。国内ルームエアコンの市場シェアが伸び悩み、セントラル空調の不振が続くなかにあって、空調3本柱戦略への転換は会社の命運をかけた決断である。こうして第1次空調事業改革は始まった。『日本の有力空調メーカー』から「世界を代表する総合空調メーカー」への脱皮を目指す基本路線の出発点はここにある。

それまでは業務用エアコンにものすごく力を入れ、売り上げも利益も上げてきました。ルームエアコンやセントラル空調も取り扱っていましたが、二の次三の次でした。セントラル空調はゼネコンなどとの付き合いもあって取り扱ってはいるか、赤字続きでした。それでも業務用エアコンで利益が出ている限りは空調全体ではプラスになるから、それでいいという感じでしたね。そんな情勢だったので、大不況になると経営資源を業務用エアコンに集中して堅実に利益を上げていく方針に会社全体か傾きつつあったように思います。

証券アナリスト説明会へ行くと「ルームエアコンはもうやめるべきだ」「なぜやめないのか」といった声ばかりだったようです。社内でも過去に空調担当の副社長がルームエアコンからの撤退を提案したこともあり、日本一の業務用エアコンをさらに伸ばす方が業績は向上するという見方かありました。セントラル空調はゼネコンから値下げ要請を受けるのですが、バブル崩壊で一層、要請が厳しくなり、果たして事業として成り立つのかという議論もありました。

それでも3事業を並列に置いたのは、これからはグローバル化の時代だといケ意識があったからです。空調のグローバル展開を正式に打ち出したのは96年に新経営計画「フュージョン21」をスタートさせたときですが、第1次空調改革で国内空調の立て直しに着手した時点でグローバル展開を意識していました。そうでなければいち早く空調3本柱とは言えませんでした。国内空調の立て直しだけを考えるのなら、当社が得意な業務用エアコンに特化し、セントラル空調を縮小したかもしれません。空調事業をグローバルに展開するうえでは品ぞろえが充実していた方がよい。

それに、3事業にはそれぞれ人がいます。技術者や営業担当などで一生懸命やっている人たちの気持ちを何とかしたい。まだまだ打つべき手があるので赤字から脱却する可能性もある。業務用エアコンにしても当時でも国内のシェアはトップで、技術力もありましたか、業務用エアコンを主軸にしている会社は当社だけであり、もっと断トツになれるはずだと思いました。日本の空調は成熟市場ですし、日本は大不況でもありました。企業の成長を目指すのなら海外に出る以外にありません。その意味でも、空調3本柱のノウハウを国内でしっかり蓄積しておく必要がありました。国内にノウハウがないのに海外に移転するのはとても無理です。

しかも、近い将来、空調機器の保守・メンテナンスやサービスで利益を上げる時代が来るとにらんでいました。そう考えると、赤字続きのセントラル空調はサービスの付加価値が大きい。発展途上国などで新しいビルが建つと。セントラル空調か大きく伸びます。成長市場の中国では大型機の方が圧倒的に利益率が高いのです。94年度にセントラル空調部門は二十数億円の赤字でしたが、2003年度に黒字に転換できました。3本柱のうちの一番大きな赤字を黒字にできれば会社の業績回復か早い。日本市場だけでなく海外も考えれば市場見通しがころっと変わることもあります。リストラだけでは会社の発展はないし、挑戦なくしてはリターンはありません。国内と海外という2極思考を排し、日本、アジア、欧州、米国の世界4極を見据えた商品別のグローバル戦略に転換したのです。